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志望動機が弱い理由~企業研究・分析の不足 [志望動機・志望理由]

ホテルササンド

インドネシア・(西)チモール島の州都クパンから10分ほど山の手に上がったところにホテルササンドがある。ササンドとはチモール島の対岸にあるロティ島に伝わる竹製の民族楽器のことだ。週に一度ロビーでササンドが演奏されていた。とても心に染みる音色(ネイロ)だった。

まだまだ若いころ・・・初めて他社との連携で乾燥地に水源を確保するための「ため池整備」プロジェクトの調査団に参加し、主にプロジェクトサイトの社会環境の調査を担当した。このホテルササンドを拠点に、東西ヌサテンガラに広がる島々へと調査に出向く日々を送っていた。

畏れ多いK団長

当時調査団の団長務めたK氏は、業界では相当有名な方で、インドネシア政府関係者からも一目を置かれている存在でもあり…一言で言えば・・・畏れ(オソレ)られていた。私も当然ながら恐かったので、できるだけ遠くに離れて行動し、相談のある時は副団長さんのところへ行き、団長さんを避けて行動していた。もちろん、朝や夕刻には必ず挨拶したが、そのころまでは会話を交わすことはほとんどなかったと記憶している。なぜあんなに恐かったのだろう。今なんて恐い存在と言われることはあっても、自分にとって恐い存在はいない。きっと、自分の専門的な実力の無さと人間的な幅の狭さに相当自信が無かったのだと思う。

2回に亘ってこのインドネシアでのK団長との話を取り上げたいと思う。今日はプロジェクトサイトの視察同行の話をしたい。ある日、日本から政府による監視調査団が視察に入るというので、1週間ほどをかけてプロジェクトサイトの10か所ほどを視察案内することになった。スケジュール調整、車や宿泊場所の手配、リスク管理などを含めたアテンド(付添)担当に指名された。しかも・・・K団長も同行することになったのである。これはたいへん!ただでさえ、政府関係者で気を遣うところ、K団長にもそれ以上の気を遣わなければならない意識があった。

現場視察へ

スケジュールの確認、配車・ドライバーの計画、地図や地形図の準備、サイトのプロファイリング、GPSのセッティング、立替経費の精算など自分で準備できることは完了し、すべての工程を頭の中に入れて、先回りの作業を実行するように心掛けた。ところが、実際の現場になると、インドネシア語ができないことがネックとなり、案内に現地の人を介在させる場合にそこで作業が止まってしまい、大きなタイムロスが生じてしまう。その度にK団長に「何をやってんだよ君は!時間がないんだよ、時間が!」と怒鳴られた。そうして・・・結局全てのサイトで怒られたと思う。でも、私は凹んでいない振りをしていた。以前、尊敬する先輩に「プロである限り隙を見せるな!」と言われていたからである。プロとして堂々としているしか方法がなかったのである。

K団長の言霊(コトダマ)

視察からホテルササンドに戻った時に、夕食の後、K団長から話があるので部屋に来てほしいと言われた。きっと、続きで怒られるのだろうと思っていたので、少し気が重かった。でもどんどん指摘されることで成長しようと思っていたので、前向きに扉を開いた。K団長からは、まず、穏やかな表情で「疲れただろう」と声をかけいただいたのである。いきなりから雷が落ちると思っていたので、少し拍子抜けだったが、「この人の話を聞こう」と素直に思えた。

「世界一旨いドリアンがあるんだ。この辺りのドリアンはクセが強くて最高だ」と言って、くさい(笑)ドリアンを目の前に置いてくださった。正直なところ、この果物?(今でも果物と認めなくないが)だけはどうも好きなれなくて、避けて通ってきた。ひょっとして・・・わざと?と思ったが、さすがにこの場においては、辞退するなんて選択肢はないので、「いただきます」と言って、息をせずに飲み込んだ記憶がある。やっぱり、美味しく感じないものはとことん美味しくない。「凄いですね。このドリアン。」と言った。どういう意味か自分でもわからない。

そこでK団長は、相変わらず穏やかな表情で「ところで・・・君は(事前に)インドネシアのことをどれだけ調べてここに来たか?」と聞かれた。正直なところ、その頃はパキスタンのプロジェクト調査と同時並行だったので、あまり時間がなく、ほとんど勉強していなかった。インドネシア国の環境プロファイルや環境関連法制、それとプロジェクトのサイトに関する社会・経済の概況について目を通した程度であった。先輩から受け継がれた「わかりやすいインドネシア語?(不明)」は持っていて、飛行機の中で読む計画であったが、映画を見てしまった記憶がある。「正直なところ・・・ほとんど勉強しておりません。申し訳ありません。これから1日1日勉強・吸収してお役に立ちたいと思います。よろしくお願いします。」としか言えなかった。

・・・すると、K団長は、「俺のために調べてくれと言ってるのではない。もちろん日本から来た役人のためでもない。インドネシアの国の人々のために調べるんだよ。言葉も同じ。現地の言葉を覚えることは、現地の人への最低限の敬意なんだ。今日すれ違った小さな女の子が自分の体よりも大きいぐらいのバケツを二つ肩にぶら下げて歩いていただろう。彼女がどれぐらいの距離を何往復するか知っているか?俺たちはすれ違う時にちゃんと言葉をかけてやらんといかんのだ。どんな小さい子どもにも敬意を払うことができなければ、俺たちはここに足を踏み入れる資格などない。まずは少しでもインドネシア語を覚えてごらん。そこから信頼関係が生まれるから。それだけだ。これからもよろしくな。あ~それとな・・・最後のサイトでプロジェクトのプロファイルが間違っているじゃないか!と言ったが、あれは俺の間違いだ。すまん、許してくれ。」・・・まさにこれは言葉ではなく言霊だった。

実際は、「はい」とか「いいえ」とか「ありがとうございます」とか言ってしまった気がするが、そんな陳腐な言葉では済まされない状況にもかかわらず、何も返す言葉がなかった。その時の感情をどのような言葉で表せば良いだろうか。言葉の一つひとつに全く無駄がなく、厳しいのに、そこにとてつもない優しさがある。他の会社の若造にこれだけ真剣に向き合ってくれるベテランがこの世にいるだろうか。それは決して、「ちょっと言っておくが・・・」という意味のない説教ではない。本当の意味でのプロフェッショナルは人に敬意を払い、その人のために何ができるかを懸命に考えることだと教えてもらった。それと下の人に対して自分を決して正当化せず、自分の非を認めて謝れることにも驚いていた。この人は凄い人だ。

同じような話で・・・プロ野球ソフトバンクの前監督である王貞治さんのことがある。数年前、開幕直後のスタートダッシュを切るために大切な試合があった。大事な局面でセカンドの選手が痛恨の大失策。サヨナラ負けした。ベンチに戻って頭をうなだれている選手に王監督が肩を叩きながらかけた言葉は、「このプレーは二度とない」という力強いものだった。プロはエラーをしてはいけないもの、だからもう二度と繰り返さないようにプロとして鍛練しなければならないという厳しさと、このプレーのことを忘れようという優しさの同居した言葉のように思えた。お金を払って野球を見に来てくれている人への敬意は、プロらしい素晴らしいプレーをみせること、しかしその前の大前提として最低限エラーをしないことなのである。

敬意を払う人生が始まった

話は戻ってインドネシア。その日から、早速仕事の合間を縫ってインドネシアとインドネシア語の勉強を始めた。その頃は未だインターネットが普及していない時代だったので、本社、ゼネコンさん、商社さんにもご協力をいただいて、インドネシアの社会・文化・環境などに関連する資料を集めまくった。本当はインドネシアに入る前にやっておくべきことを現地の業務と同時並行で進めることになった。寝不足で辛かったが、日々の蓄積が自信となり、現地の人とインドネシア語と英語が混じったコミュニケーションでもいろいろな話ができるようになった。もちろん、インドネシア語は初心者なので幼児が話すインドネシア語のように聞こえるらしいが、それが相手も楽しいらしく、コミュニケーションがスムーズに進んでいった。

それまでの自分の調査スタイルは、どこか自己満足的なところが大きく、結局はその国や地域の人たちの方向を見ていなかったように思える。国際開発・協力の仕事はそれそのものが「良いことをしている」というイメージなので、陥りやすい罠であるが、それが自分勝手な押しつけであったとしても自分を正当化できてしまうのである。自分は自分のためにインドネシアやインドネシア語の勉強をしたのではなく、インドネシアの国や地域の人のことを真剣に考えたいとの想いから時間を使った。それはインドネシアの人々への敬意なのである。

敬意を払う。尊敬の念を表すこと。これこそがコミュニケーションのスタートなのではないだろうか。相手がボールを持っている状況でキャッチボールが始まるまさにその時に、自分が相手のことを尊敬する念を抱きながらボールを受け止めてやるコミュニケーションの持ち方である。

K団長も世界の王監督も、プロとしてまず敬意を払うためにしなければならないことは何かをわかりやすく教えてくれている。それらをインドネシアの勉強であり、エラーをしないことだった。インドネシアでの経験以降、対象となる相手や組織に敬意を払うために今自分は何をすべきなのかを考えて行動している。いや、行動しているつもりだ。多分できていないところも多々あると思うが、常に意識している。年上・年下関係なく、男・女関係なく、敬意を払うための活動を心掛けている。これまで多くの学生さんと面談をさせていただく機会があったが、当然ながら特別な敬意を払ってきた。それは自分を毎日成長させてくれる貴重な存在だったからである。

企業研究・分析の不足

さて、今日は志望動機が弱い理由として、企業研究・分析の不足について考えたい。最近の模擬面接でも必ずどこかの企業を例にして、志望動機を聞くようにしているが、前にも書いたがやはり企業研究・分析が極端に不足している。

その会社のホームページをサラッと目を通した程度で、中身を見ようとしていないし、その行間から知れる文化など見向きもしない状況である。そもそも、ホームページはその企業の社会的な役割が示されているツールなので、ホームページで企業研究・分析することは難しいとされている。本当のことは何もわからないからである。しかし、OBOG訪問や会社訪問をしていないケースが多く、図書館に行って調べることも怠ってきたので、ホームページしか頼るものがない。なのに・・・サラッとしか見ないのである。どうしてこんなにまで企業のことを知ろうとしていないのか・・・胸に手を当てて考えてみてほしい・・・その答えは今日のインドネシアの話の中にあるだろう。

企業に対する敬意が払われていないこと

結局は自分本位の就活になっていて、その企業に対する敬意を払うことはなく、当然そのために今の自分は何をすべきかについても考えてられないのだと思う。しかし、残念なことに、そんな姿勢では企業はあなたと一緒に働きたいと思わない。どうか余裕のある会社に行ってくれ・・・となってしまうのである。企業は皆さんがどれだけ企業のことを知ろうとしているかを観察している。志望動機を聞きながら、内容の正誤ではなく、スケールの大小でもなく、実現性の高低でもない、どのような敬意が払われ、どれぐらいの誠意が示されているかをじっと見ている。

もちろん企業の情報には限界があるので、奥の方までは見えないだろう。社員一人ひとり、やりがいも環境も待遇も違うので、計算式の答えのようにはいかないが、まずはいろいろな実際の情報を知っておく必要がある。また、実際の情報ではなくても、会社の方向性や理念についての言葉の意味を自分なりに考えておくことも大切だ。例えば、その会社が「革新:イノベーション」を大切にしている会社だとすれば、イノベーションに関する言葉の意味、一般的な企業に存在するイノベーション、そしてその会社特有に生み出されたイノベーションと今後生み出されるイノベーションの方向性などについてしっかりとした意見を持っておく必要がある。

どれだけ、その企業に対して敬意を払い、そのために自分が何をどれだけ調べ尽くすことができたか?これが志望動機に全て表れてしまう。今日からの就職活動は、対象となる企業に必ず敬意を払い、企業のことや企業が大切にしている言葉について調べ尽くそう。それが本当の意味でのコミュニケーションのスタートになるだろう。

眼を閉じて、耳を澄ませば

あのインドネシアの少女はもうずいぶん大人になったと思うが、小さい頃は3キロの道のりを毎日3往復していた。そのために学校にも行けず、ずいぶん長い間辛い思いをさせた。しかし、その1年後には大きなため池ができて、パイプラインと水栓が各村に整備されたので、バケツを担がなくて済んだと思う。きっと学校にも通えるようになったと信じたい。でも、あの時あなたに敬意を払うことができなかった私は、今もなおその罪を背負っている。

「今は亡きK団長・・・あなたに教えていただいたとおり、あれから敬意を払うことを大切に生きています。これまでも5000人を超す学生さんとのコミュニケーションの中でも敬意を払い続けてきましたが、やはりその時までに敬意を払えなかった多くの事実は消えることはありません。これからもそれらの罪を償うために懸命に生きていこうと思います。見ていてください。ホテルササンド。消して忘れることはありません。あの言霊もあのササンドの音色も。」

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2009-06-25 00:31  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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